ギター1本で、コード、メロディ、ベースを同時に奏でる。
Joe Passのソロ演奏に挑戦し、ジャズギターの真髄を体感せよ。

静かにして揺るがぬ存在感
Joe Pass(1929–1994)は、20世紀のジャズ・ギター史において、最も高い評価を受け続けるギタリストの一人です。
彼の演奏は、まるでピアニストが鍵盤を奏でるように、ギター1本でメロディ、ハーモニー、ベースラインを同時に組み立てるという、極めて高度な表現力を備えています。そこには、技術と構築力、そして深い歌心が見事に共存していました。
独学で築いた唯一無二のスタイル
10代の頃にギターを手にしてから、ラジオやレコードで音楽を吸収し、独学で音を探し続けた彼は、やがて即興演奏の中に高度なコード理論とリズム感覚を融合させるスタイルを確立。
派手なパフォーマンスはありませんが、選び抜かれた一音一音の美しさが、深い余韻と説得力を持って聴く人に届きます。
『Virtuoso』に宿る職人の哲学
代表作とされる『Virtuoso』シリーズは、ジャズ・ギター史における金字塔。
ギター1本でここまで音楽が成り立つのか――と、世界中のギタリストに衝撃と影響を与え続けてきました。コード、メロディ、ベースを1人で演奏しながらも、どの要素も犠牲にしない構成力は、まさに音楽職人の域といえるでしょう。
音楽に仕える姿勢
Joe Passのギターは常に「音楽に仕える」ものであり、テクニックを誇示するためのものではありませんでした。
どんなに複雑なハーモニーも、どこまでも自然に聴かせるその演奏には、ギタリストとしての深い哲学と覚悟が宿っています。
次世代への影響(Tomo Fujitaとの関係を含む)
こうしたJoe Passの姿勢やスタイルは、今なお多くの後進のギタリストにとっての指針となっています。
その一人が、バークリー音楽大学の准教授であり、世界的ギタリストとして知られる Tomo Fujita 氏です。Tomo氏は、グラミー賞受賞シンガーソングライター John Mayer の師でもあり、Joe Passから直接レッスンを受けたという貴重な経験を持っています。
1990年から1991年頃、Tomo氏はバークリーの友人とともにボストンで行われたJoe Passのライブを観に行き、終演後にプライベートレッスンを申し出ました。
最初は断られたものの、Tomo氏の熱意に心を動かされたJoeは「ボストンで最高の葉巻店に連れて行って、葉巻を1箱買ってくれるなら教えるよ」とユーモラスな条件を提示。
Tomo氏と友人はその条件を快諾し、実際にJoe Passを葉巻店に連れて行き、葉巻を購入しました。
その後、Joe Passは2時間以上にわたり丁寧なレッスンを行い、その内容はすべてカセットテープに録音されたといいます。
この逸話はTomo氏自身の公式サイト「Guitar Wisdom」のフォーラムにて語られており、Joe Passの人柄と教育的な精神、そしてTomo氏がどれほど深く彼の音楽に影響を受けたかを物語っています。
本質に触れるために
Joe Passの音楽に触れるということは、テクニックを学ぶ以前に、「音楽とは何か」という問いと向き合うことでもあります。シンプルで誠実なそのプレイからは、派手さではなく、確かな芯と奥行きが感じられるはずです。
あなたがギタリストとして道を極めたいと感じているなら、Joe Passの演奏は、きっと確かな道しるべになるでしょう。譜面の奥にある“音楽そのもの”を感じ取り、自分の音でそれを表現してみてください。
Joe Passもまた、そうやって音と向き合い続けたひとりなのです。
コメントを残す